まず、本文書の執筆にあたり、宗教の現役信者を批判する意図や彼らの信教の自由を奪う意図は全くないことを宣言致します。現役信者の信教の自由を確保しつつ、二世信者を始めとする信仰を持たなくなった者の信教の自由を保証したり、児童虐待を防止することが必要だと考えております。
また、安倍元総理のご逝去を悼み、謹んで哀悼の意を表し、心よりご冥福をお祈り申し上げます。犯人にどのような生い立ちや動機があろうとも、人命を奪う行為は決して許されるものではありません。
目次
厚生労働省のガイドライン「宗教虐待Q&A」がゲームチェンジャーに
2022年12月27日に厚生労働省により発出された、宗教虐待が児童虐待(心理的・身体的・性的虐待)に当たることを示すことにより児童虐待防止法の適用範囲を明確にしたガイドライン。これがゲームチェンジャーとなり、宗教二世は救われることになりました。
宗教虐待の児童虐待での定義は?
宗教虐待Q&Aによる児童虐待の定義は以下のようなものになっています。以下は概略版です。
エホバの証人の児童虐待可能性① 「ハルマゲドンで滅ぼされるぞ」「地獄に落ちるぞ」教理に内在する虐待
エホバの証人の行動
エホバの証人の教理にハルマゲドンがあります。ハルマゲドンとは「この世の終わり」のことを指します。例えば、エホバの証人の教理では、エホバが悪魔サタンに支配されたこの世を終わらせエホバの支配下に置く際、この世を終わらせるために必要なのが「ハルマゲドン」です。エホバの証人教団は、空から火が降ってきて、エホバの証人以外を選択的に殺害し、エホバの証人だけは生き残ると教えています。
宗教虐待ガイドラインの児童虐待
「宗教虐待Q&A」の問3−1には、「「滅ぼされる」などの言葉や恐怖をあおる映像・資料を用いて(中略)、恐怖の刷り込みを行うことは心理的虐待に当たる」とされています。
教理はハルマゲドンを生き残って神の楽園に行くことであり、逆に言えばハルマゲドンで滅ぼされないことです。教団は集会や聖書研究においてそう教えますし、親信者は当然「集会に行かないとハルマゲドンで滅ぼされる」と子どもに教えます1。
したがって、親が子に「教理に従わなければハルマゲドンで滅ぼされる」「地獄に落ちる」と教えるのは心理的虐待であるのは間違いがありません。
教団の責任は問えるのか
教団の責任が問えるか、考えてみましょう。エホバの証人の教団は聖書研究や週2回の集会及び大会への参加を通じて、「エホバに従わなければハルマゲドンで滅ぼされる」とする教理を繰り返し学習することを求めており刷り込んでいますが、親ではないため法律上の「保護者」ではありません(児童虐待の防止等に関する法律第1条)。そのため、教団については法律が適用できない状態にあると言えます(刑法上の脅迫、その教唆に当たるか議論はありますが、実務家から見れば本事案に脅迫、教唆の適用は困難だと思われます)。
エホバの証人の児童虐待可能性② 集会・大会による虐待
エホバの証人の行動
エホバの証人の集会は、週2回、それぞれ2時間程度で開催される会合のことです。賛美の歌や祈りで始まり、終わります。以下のように、曜日ごとに趣の異なる講演等がなされます。主に土日に行われるのが、公開講演とものみの塔研究(2時間程度)、平日に行われるのが神権宣教学校、奉仕会、書籍研究等です(2時間程度、時代により変わってきました)。
大会とは、大規模な集会です。年に一度のペースで開催される大規模(例えば、九州などの単位で行われる)な「地域大会」と、年に2,3度のペースで行われるより小さな規模(例えば、福岡第一巡回区などの区域ごとに行われる)の「巡回大会」があります。
宗教虐待ガイドラインの児童虐待
「宗教虐待Q&A」問3−1によれば、恐怖の刷り込みを行うこと、児童を無視する・嫌がらせをする等拒否的な態度を継続的に示すことで、宗教活動等への参加を強制することは児童虐待(心理的虐待)に該当するとされています。
そのため、親が子に対して集会・大会への参加をするように強制するのは児童虐待に当たります(背景に「ハルマゲドンで滅ぼされる」という思想があるため、恐怖の刷り込みをしていると言えます)。
教団の責任は問えるのか
教団の責任が問えるかといえば、教団は聖書研究や週2回の集会及び大会への参加を通じて、「エホバに従わなければハルマゲドンで滅ぼされる」とする教理を背景にして証言することを求めていますが、親ではないため法律上の「保護者」ではない(児童虐待の防止等に関する法律第1条)。そのため、教団については法律が適用できず野放しの状態にあると言えます(刑法上の脅迫、その教唆に当たるか議論はありますが、実務家から見れば本事案に脅迫、教唆の適用は困難だと思われます)。
エホバの証人の児童虐待可能性③ 伝道(宣教、奉仕)による虐待
エホバの証人の行動
2022年に行われた調査では、エホバの証人の2世信者は、9割近くが「戸別訪問の勧誘」などを、教団や家族から求められていたことが分かっています2。
伝道(宣教のこと、奉仕とも言います)は概ね三種類あります。1つ目が「家から家」と呼ばれるものです。これは、個別宅のインターホンを鳴らして訪問し、勧誘行為をすることです。次に、「カート奉仕」と呼ばれるのは、駅前などの人通りの多いところに車輪付きで移動させやすい看板を置き、その周辺で通行人に声をかけて勧誘をすることです。最後に、「電話証言」と呼ばれるのは、電話番号のリスト(タウンページなどが使われる)に基づいて電話をかけて勧誘行為を行うものです。
宗教虐待ガイドラインの児童虐待
「宗教虐待Q&A」の問3−5を要約すると、宗教の布教活動への参加を強制するために「ハルマゲドンで滅ぼされるぞ」等と脅迫したり拒否的な態度を示したりすることは心理的虐待に当たります。
そのため、親が子に対して伝道をするように強制するのは児童虐待に当たります。
教団の責任は問えるのか
教団に対してはどうかと言えば、「宗教虐待Q&A」問3−5は「脅迫又は暴行を用いた場合には、刑法の強要罪に該当する可能性もあるため、こうした事例への対応に際しては警察と迅速に情報共有を図る等の連携した対応が必要である」としています。これは、教団の行為は児童虐待防止法には当たらないものの、刑法に該当し得るとしたものです。ただし、実務家から見れば本事案に強要の適用は困難だと思われ、法整備が待たれます。
エホバの証人の児童虐待可能性④ 証言(友人等への信仰の告白)による虐待
エホバの証人の行動
「証言」とは、友人や学校の先生などに自分がエホバの証人であることを告白することを言います。告白するだけでなく、勧誘を行うことも含みます。
二世信者が証言をする目的は学校行事への不参加のため等です。エホバの証人は学校行事への制約があります。例えば、教理のために国歌・校歌斉唱も、そのための起立もしません(異教の崇拝にになるため)。また、教理に反するスポーツ(例えば柔道などは戦いになるため教理に反するという)もしません。さらに、友人関係においても誕生日イベントに参加出来ないし、クリスマスイベントに参加できません。二世信者はこうした学校行事に参加できない理由を説明し、先生に然るべき処置をとってもらうことが必要であり、その目的で証言を行います。
宗教虐待ガイドラインでの児童虐待
「宗教虐待Q&A」問3−4によれば、児童本人が宗教を信仰していないにもかかわらず信仰している旨を宣言することを強制する行為や、児童本人が自身の信仰する宗教等を他者に知られたくない意思を有していることを考慮することなく、他者に対して信仰する宗教等を明らかにすることを強制する行為は児童虐待(心理的虐待)に当たります。
そのため、親が子に対して証言をするように強制するのは児童虐待に当たります(背景に「ハルマゲドンで滅ぼされる」という思想があるため、恐怖の刷り込みをしていると言えます)。
教団の責任は問えるのか
教団の責任が問えるかといえば、教団は聖書研究や週2回の集会及び大会への参加を通じて、「エホバに従わなければハルマゲドンで滅ぼされる」とする教理を背景にして証言することを求めていますが、親ではないため法律上の「保護者」ではない(児童虐待の防止等に関する法律第1条)。そのため、教団については法律が適用できず野放しの状態にあると言えます(刑法上の脅迫、その教唆に当たるか議論はありますが、実務家から見れば本事案に脅迫、教唆の適用は困難だと思われます)。
エホバの証人の児童虐待可能性⑤ 大学進学の拒絶による虐待
エホバの証人の行動
2022年に行われた調査では、エホバの証人の2世は他の宗教の二世信者に比較して大学進学率が低かったことが分かっています。また、6 割以上の2世信者は、学業や就業の面で、制限を経験していたことも明らかになりました3。
教団は出版物で信者に高等教育を推奨していません456。この背景には、もうすぐハルマゲドンが来てこの世で必要なことはいらなくなるからという見方があります。
宗教虐待ガイドラインでの児童虐待
「宗教虐待Q&A」問4−2によれば、「世界は破滅するので、学校に行くことは無駄である」など諦めさせようとすることにより進学を禁止するような行為は児童虐待(心理的虐待)に該当します。
そのため、親が子に対して進学を諦めるように強制するのは児童虐待に当たります(背景に「ハルマゲドンで滅ぼされる」という思想があり、厭世的価値観が背景になっています)。
教団の責任は問えるのか
教団の責任が問えるかといえば、教団はハルマゲドン教理を背景にして上記教理を教えていますが、親ではないため法律上の「保護者」ではありません(児童虐待の防止等に関する法律第1条)。そのため、教団については法律が適用できず野放しの状態にあると言えます。
エホバの証人の児童虐待可能性⑥ ムチで打つのは児童虐待
エホバの証人の行動
2022年に行われた社会調査支援機構チキラボの調査では、エホバの証人2世のうち8割以上が「家族からの体罰を経験した」と回答しました7。また、近年でも鞭を受けた被害者による証言が多数ある891011。
宗教虐待ガイドラインでの児童虐待
「宗教虐待Q&A」問4−2によれば、宗教活動等への参加を強制することも含め、理由の如何にかかわらず、児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある体罰を行うことは児童虐待(身体的虐待)に該当します。
そのため、親が子に対してムチをするのは児童虐待に当たります。
教団の責任は問えるのか
教団の責任が問えるかといえば、教団はムチの教理を信者に教えた証拠が多数ありますが、親ではないため法律上の「保護者」ではありません(児童虐待の防止等に関する法律第1条)。そのため、教団については法律が適用できず野放しの状態にあると言えます。
教団の主張は
教団は毎日新聞の取材に対して「方法は各家庭で決めることだが、体罰をしていた親がいたとすれば残念なことだ。教えを強制することもしていない」とコメントしています12。また、後日、毎日新聞の取材に対して「1990年代には誤った解釈でむち打ちなどがされていたことは聞いている」と答え、鞭がなされたことを認めたものの、責任を信者側に転嫁しています13。
他方、このような教団側の態度を無責任と考える元2世信者が謝罪要求をするなどしています14。
エホバの証人の児童虐待、残された課題は?
上記の通り、教団の教理・行動は児童虐待の可能性が高いと言えます。
一方で、児童虐待防止法は親子関係を念頭において法律であり、そもそも教団が関係する宗教虐待を念頭に置いたものでありません。そのため、教団行為に関しては事実上野放しになっており、対策が待たれます。なお、現行法制度でできることについて整理した資料を掲示します。
厚生労働省から宗教虐待Q&Aが示されたことは
- 『宗教2世』当事者1,131人への実態調査,チキラボ,2022年
- 『宗教2世』当事者1,131人への実態調査,チキラボ,2022年
- 『宗教2世』当事者1,131人への実態調査,チキラボ,2022年
- 教団文書「高等教育はモラルや神様との関係を損ないかねない」
- 教団文書「親の皆さん ― お子さんにどんな将来を望んでいますか」
- 教団文書「大学教育 ― 何に対する準備?」
- 『宗教2世』当事者1,131人への実態調査,チキラボ,2022年
- 『解毒 エホバの証人の洗脳から脱出したある女性の手記』角川書店、坂根真実、2016年。ISBN978-4-04-103709-6。
- “信者家族「たたかれた子」と親の間の埋まらない溝 「信仰心による体罰」責任を負うのは親だけか” 東洋経済オンライン
- “ムチを打てない人は「子どもをサタンから守れない人」 “エホバの証人”元二世が明かす異常な“懲らしめ”の実態”. 文春オンライン
- 毎日フラッシュバックする「宗教虐待」の心の傷 宗教2世を苦しめ続ける「時間の献金」と体罰、東洋経済オンライン,2022年
- 「親から体罰、希望していた受験もできず」 エホバの証人3世訴え,2022年11月7日,毎日新聞
- エホバの証人、子どもへの「むち打ち」はなぜ? 教団広報に聞く,2023年1月5日,毎日新聞
- エホバの証人による児童虐待を公式否定した教団広報に撤回と謝罪を求めます(Change.org),2022年